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オヤジのCT110のこと。

URF店長:太田です。

 

前回のブログでは、真面目に本業である修理のことについて書きましたが、

今回はバイクの話です。

 

 

今、店に自分のオヤジが所有している、『ホンダCT110』が入庫しています。

このCT110(通称:ハンターカブ)は、1982年製の国内モデルです。

コイツとの出会いは、自分が21歳の頃まで遡ります。

 

当時自分は、通っていた藤沢の海側にある某工業大学を中退し、在学時から

アルバイトをしていたバイク屋(正確にはバイクと車の両方を扱っていた店)に

就職し、日々バイクの販売修理に明け暮れていました。

 

この頃は所謂『HY戦争』(※)真っ盛りで、店にスクーターを並べておけば

お客さんが「これ下さい。いつ乗れますか?」という感じで、それこそ土日は

スクーターを買いたいお客さんが、開店前から行列を作るほどの異常な光景で

当時を知ってるバイク業界人にしてみたら『夢のような良い時代』だったのです。

 

※HY戦争

市場シェアNo1のホンダにヤマハが、王座を奪わんと仕掛けた安売り合戦。

スクーターが自転車並みの値段で乱売されました。^^;

 

今は原付2種が主流で、50cc原付は日本だけの『ガラパゴス車種』に

なっていますが、当時は空前の50ccブームで、原付免許を取得する人も多く、

車の免許だけでも乗れる50ccは、『一家に一台から一人に一台』になるほどでした。

 

 

 

そんなある日、1台の赤いバイクが下取り車として店に入って来ました。

新車で買ってようやく慣らし運転が終わったらしいそのバイクは、走行距離も

2千km台でしたが、持ち主の方が言うには「女房も原付免許を取ったがこれは

(原付2種なので)乗れない。下取りに入れて50ccに乗り換えたい」

とのことでした。

 

勤めていた店の先輩が査定し、下取り価格は8万円。(およそ新車の半額)

8万円あれば50ccスクーターが2台買える時代だったので、諸経費分だけ

出してそのお客さまは、50ccスクーター2台を購入しました。

 

「ふ~ん。ハンターカブか。オヤジが好きそうなバイクだなぁ」

 

オヤジは自分が物心付く前から通勤にスーパーカブを愛用して、何台も

乗り継いでいたほど、根っからのカブ好きでした。

 

「オヤジ、ハンターカブが下取りで入って来たんだけど、いる??」

 

仕事が終わり、実家に電話をしてオヤジに聞いてみました。

 

「ハンターカブか。いいな。いくら(で出してくれるん)だって??」

 

「さぁ、社長次第だけど8万で取ったから10万ぐらいで売ってくれるかも」

 

「それはいいな。よし正幸、悪いけどお前(金を立て替えて)買ってくれ」

 

「あぁ、いいよ。お金は出しておくよ」

 

月5万円の仕送りで生活していた貧乏学生は、大学を辞めて就職したら、

毎月15万の給料を頂いていたので、即金で買うことにしました。

 

思惑通り10万で売ってもらい、当時車の免許を持っていなかった自分の代わりに

一緒の店に勤めていた弟が、店から借りた軽トラにCT110を積んで甲府へ。

それまでオヤジが使っていたカブ90に代わって通勤の足になったのです。

 

 

しかし、それから数年後。

オヤジが務め先の駐車場に停めて置いたハンターカブは、盗難されてしまいます。

 

「そりゃ、鍵を付けっ放しじゃ盗まれて当然だよ。もう出て来ないかもよ」

 

オヤジから110が盗まれた話を聞いて、呆れましたがここからが面白い話です。

 

「太田さん(オヤジ)、一昨日増穂町あたりを走っていたかい??」

 

オヤジの知り合いがハンターカブを甲府から少し離れた町で見かけたとのこと。

ハンターカブは数が少なく、当時オヤジの110は荷台に大きなビールケースを

付けていたので余計に目立ったいたのです。

 

「いや、俺じゃない。でもそのカブは盗まれた俺のカブだ」

 

そこからがオヤジの執念です。

目撃情報を頼りに、数日間110が走っていた近隣で聞き込みをして、

ついに盗んだ犯人の自宅を特定。(まるで刑事です^^;)

犯人が110に乗って走り出す瞬間を待って、とっ捕まえたのでした。

 

無事手元に返って来た110はその後、オヤジが兼任していた富士吉田の

営業所との往復にも使われていましたが、いつしか乗らなくなり、

10年以上も長い眠りについていました。

 

それからさらに数年後、自分が実家に帰った時暇を持て余していたので

時間潰し代わりに110のキャブOHをして、一度はエンジンが覚醒。

しかし、オヤジは乗る時間もなく、またまた長い眠りについてしまったのです。

 

「オヤジ、110を起こそうか?」

 

自分が店をやり始めて間もない頃は、秋のクラシックバイクミーティングに

参加する時、店にあるバイクを貸し出していましたが、気が付けば110も

すでにクラシックバイクの領域。

それに毎年『借り物のバイク』で参加させるのも少し気が引けたので、

オヤジに自分の愛車でミーティングに参加させようと思い、

実家から店に持って来たまでは良かったのですが、言い出した自分にも

110をレストアする時間が取れなくなっていたのでした。

 

「よし、今年こそは秋のミーティングに間に合うように直そう!」

 

今から3年前、一念発起してレストアに取り掛かり、色褪せていたフェンダーや

ライトケースを再塗装。

錆々だったスポークやリアサスも塗り替えて、化粧直しが終わりました。

 

「おぉぉ、随分キレイになったなぁ。さすがバイク屋だ」

 

5年振りに110と対面したオヤジは、満面の笑みで愛車と再会しました。

 

 

 

「燃料ホースからガソリンが漏れててな。直そうとしたら、ホースが割れたよ」

 

先月のクラシックバイクミーティングの前日、オヤジから電話が入りました。

 

「ホースが折れた?劣化してたんだよ。それは危ないから乗らない方がいいよ」

 

息子のアドバイスに大人しく従ったオヤジは、不本意ながら今年はバイクでの

参加を諦め、車で現地入りしました。

 

「じゃ、持って帰って直しておくわ。来月持ってくるよ」

 

先月、実家に帰った時に110をレスキューして再び当店へ入庫。

劣化したガソリンホースを交換するついでに兼ねてからやってみたかった事が

あったので、ネットで情報を仕入れ、『CT110、リニューアル計画』を

実行しました。

 

その『リニューアル計画』とは電装を12V化すること。

この当時の小排気量車は、電装が6Vが当たり前だったのですが、CT110は

ちょっとした電気知識と12Vに対応する部品があれば比較的簡単に12V仕様に

することが可能なのです。(実際にやった人の情報がネットに多数あり)

 

「さぁ、これで12V仕様になったぞ。どうかな…うおぉ、ライトが明るい!」

 

今週水曜の定休日を使って、電装を12V化しましたがその効果は絶大。

今までノーマルのレギュレーターが壊れていたので、過電流が流れてライト球が

何度も切れて夜は乗れない不具合も解消され、灯火類全体が明るくなりました。

 

「うん、大成功。これで夜も安心だ。自分の通勤用にしようかな??」

 

一瞬、そんなことも頭に浮かびましたが、まだ自分はカブと添い遂げるほど

バイク人生を達観してませんし、何よりこの110はオヤジの相棒です。

今はちょっとキャブのご機嫌が悪いのですが、あとはオヤジに任せて

来週あたりに実家に帰してやる予定です。