(前回からの続き)
「よぉ、来てたのか。どうよ、SRは」
自分の隣に並び、黒縁メガネを直すしぐさをしながら問い掛けます。
「赤にしたんだ?意外だな。てっきり黒の方をを買ったと思ってたよ」
「あぁ、ちょうど見に行った店の展示車でこれがあって、黒は取り寄せだが
赤なら即納出来る。って言われたから、こっちにしちまった」
「なるほどな。それで乗った感じはどうだ?」
せっかちな性格のRらしい判断だと思いながら、一番気になることを
聞いてみます。
「あぁ、面白いぜ。意外とダッシュが速い…乗ってみるか??」
そう言いながら部屋のドアを開け、中からSRのキーを放り投げました。
「え、乗っていいのか?」
前のめりにキーをキャッチして、戸惑っている自分にRは
「その前にエンジンが掛けられれば。だけどな」
と悪戯っぽく笑っています。
「単気筒だからキックが重そうだな」
独りごちた自分の言葉には耳を貸さず、ハンドルロックを解除し、
サイドスタンドを掃うとSRを表の歩道へ押し出しました。
「最初はセンスタを掛けてキックした方がいい。ハンパに蹴ると
“ケッチン”(※)喰らうぞ」
※ケッチン=
単気筒エンジンは、中途半端なピストン位置でキックすると、
圧縮の反発でキックペダルが跳ね返され、戻ったペダルが容赦なく
脛や脹脛を直撃すること。これをやられると激痛で悶絶します。
言われた通りにセンスタを掛ける時、思ったより重量が軽く感じられました。
「あれ?思ったより軽いんだな。KHと同じか、それより軽い感じだ」
ステップの上に立ち、メインキーをON。
キックペダルを出し、おもむろに踏み込みました。
しかし、右足の裏に伝わって来たのは、圧倒的な抵抗力で、下までペダルを
踏み降ろすことが出来ません。
「うっ、重てぇな…KHとは大違いだ」
それまで乗っていたKHは、圧縮の軽い2サイクル。しかも3気筒エンジンだったため、
どこから踏んでもこれほど重さを感じることはなかったのです。
何度かチャレンジしましたが、エンジンに火を入れることが出来ませんでした。
「コツがあんだよ。俺も最初はエンジン掛けるのに苦労した。貸してみ」
息が上がり、額に汗を流す自分を見かねたRが自分と交代してステップの上に
立ちました。
「まず、チョークを引くだろ。次は右足をゆっくり降ろして上死点の手前に
ピストンを上げるんだよ。そしたらこの(デコンプ)レバーを握って離す。
で、一気に踏み降ろすッ!」
自分に説明しながら、大きなモーションで右足に力を込め、一気にキックペダルを
踏み抜きました。
(その3へ続く)
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