(前回からの続き)
そんな日々が続いたある日の夜、いつものようにRの住むアパートへ行き、
部屋に流れるFMをBGMに、取り止めのないバイク話をしていた時でした。
「太田さぁ、バイク何買うか決めたのか?」
「いや、まだ色々迷ってる…金のこともあるし、新車は無理だわ」
「中古でイイじゃん。で、SRはどうよ。乗って良さが判っただろ?」
「あぁ、SRは良いバイクだと思う。正直、凄く欲しいよ」
「ならSR買えよ。付き合うなら、自分が惚れた女が一番だぜ」
「そうなんだが、SRは先にお前が乗ってるだろ。同じバイクじゃ…」
「何ヘンな意地張ってんだよ。いいじゃねぇか同じバイクでもよ。
一人の女に2人で惚れたら面倒だけど、バイクは世の中にたった1台じゃねぇだろ。
変なとこ拘ってると、ヘタな女と付き合って失敗するぞ」
「…まぁな」
「お前さぁ、俺に変な気使ってんじゃねぇのか?俺のSRは俺のものだ。
お前はお前で違うSRを手に入れて付き合えばいいじゃねぇか。そうだろ?」
「あぁ、そうだな。…判った、俺もSRにするよ」
「そうしろ。手に入れたら、一緒に走ろうぜ」
なかなか踏ん切りが付かなかった気持ちと背中を、まるでSRが路面を蹴っ飛ばすのと
同じようにRの言葉が自分を前に押し出してくれました。
「よし、決めた。SRを買おう。明日、父親に電話して相談してみよう」
Rのアパートから自分の部屋に戻る途中、生温かく湿り気をたっぷり湛えた
深夜のサーファー通りを赤い原付で走りながら、そう心に決めたのでした。
(その6へ続く)
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